HOME » 住人十色 » 住人十色 13

住人十色 13

和紙作家の土間アトリエ

向後氏

紙すきアートの制作現場は、静かな住宅街の借家だった。向後聖紀さん(25)は、コンクリートの土間で、布を張った台に、どろどろの赤茶けた繊維をバケツから流し込んだ。

わずかな気流をとらえて水の上をすべる繊細な向後さんの作品。材料の紙づくりから始まる作品は、「紙すき」にひそむ紙と水の関係性、その技術を映し出す。だが、この日の紙すきは、さらに違った濃厚さを帯びていた。

「材料はこの家にあった古畳です。」制作に使っている台も家のふすま枠だという。なんと、家の建具がそのまま和紙づくりの器財や材料になっていた。

自宅で紙すきができる環境をと、土間回りに水道があった家を借りた。2間続きの1部屋分の床をはがしてコンクリートを張り、土間とつなげた。

残った一部の床下が、半分腐っており、取り除いた部屋の床材をあてるなど荒療治だったが一人でやりとげた。「もともと物づくりが好きで、そんなに難しい作業ではなかった」という。

制作に使う道具類は充実させたいと夢を語る姿はいかにも物づくり好きのようだが、住む場所は4畳半1間で簡易ベットがたたずむのみ。すがすがしさがただよう職人の館。

紙はそもそも「リサイクルして使うものだった」と言う。京都は紙の都。平安京の官営造紙所、紙屋院は紙屋川の清流でつくられた紙の美しい品質を誇ったが、律令制の崩壊とともに衰えた。ところが、再生紙である「宿紙」の生産地として復活したのだという。

薄墨色をした宿紙は、写経などに使われ第二の生をうけた。古畳からできた紙は荒い素朴な風合い。

コンクリート床に改造した作業スペースでの紙すき。紙すきでは水を使うため、ひと部屋分まるごと土間に改装した。
古畳の繊維をほぐし、和紙の材料に。「当分、制作には困らないだけの量が確保できた」という。
水の上を滑る紙の立体。向後さんの作品「椿の海」(今立現代美術紙展優秀賞)
一覧へ戻る
株式会社ルームマーケット 〒606-8336 京都市左京区岡崎北御所町56-4 電話 075-752-0416 FAX 075-752-2262
AM10:00~PM6:30 定休日はこちら E-mail:info@roommarket.jp プライバシーポリシー
宅地建物取引業 京都府知事(3)11495号・二級建築士事務所 京都府知事登録(25B)第02171号・建築業許可 京都府知事許可(般-18)第36810 pagetop
Copyright(C)2012 room market co.,ltd. All Rights Reserved.